屋台ヒストリー ―「今」と「昔」に想う、屋台の生き字引たち―
2020年8月29日今では福岡の代名詞となった“屋台”。長年の歴史があるからこそ、今の屋台文化が引き継がれています。全盛期そして今を共に歩む、屋台の生き字引たち。天神「玄海」、長浜「若大将」、そして中洲中島町「とん吉」、それぞれのエリアの生き字引たちによるヒストリーを、ご紹介します。
※撮影のため、一部マスクを外しています。
【玄海】
「僕二代目なんですよ。屋台を継いで45年かな」
昭和25年創業「玄海」二代目大将 池さん。ご夫婦で天ぷら専門の屋台を営業されています。大将のお父様が始められた「玄海」を継がれて45年。屋台を継ぐ前はサラリーマンを12年間していました。お父様の代では屋台の場所も今と違い、新天町の入り口付近で営業。当時は,観光客のお客さんは少なく地元の常連さんが多かったとのこと。
「24時間営業の店が少なかったから、仕事帰りの人や残業の合間に定食を食べに来る人がほとんどでした」。現在はPM 11時までの営業だが、当時はAM 1時まで営業していたそう。定食を食べる方がほとんどなので、お客さんの回転がはやくとても忙しかったと語る大将「ご飯とみそ汁と天ぷらがついた定食が人気だったよ」。
屋台ブーム到来
「バブルの頃に屋台ブームがやってきた」と女将さん。観光客の方が多く訪れるようになり、屋台が福岡の観光名所へと変化しました。「昔は日に1~2組観光客の方が来店するぐらいでしたが、現在の客層は観光客の方が半分以上ですね」とのこと。特に5月のどんたくの時期には、行列ができるほど賑わいを見せます。有名人の方が訪れたり、思い出深い出来事も・・・。
おすすめは「盛り合わせ」セット
「玄海」の人気No.1メニューは天ぷらが8種入った「盛り合わせ(えび・いか・甘鯛・鶏・季節の野菜4種)」セット! 創業当初から変わらない手法で作られた天ぷらは絶品!「こだわりのポイントでもある油はなたね100%を使用し、白い衣はフワフワです」と一言。ごはんやアルコールとも相性抜群の天ぷらは夜遅くに食べても軽く、胃にもたれません。
生まれ変わっても屋台をやりたい
「お客さんと会話することが毎日の楽しみ!屋台を開店することが幸せですね」という言葉を零した大将は、45年間屋台を営業して苦労したと感じたことがないそう。「観光客の方に屋台の良さをもっと知ってほしい、こだわりの天ぷらを食べにきて下さい」と最後にアピール。
玄海
住所:福岡市中央区天神2-14-13(天神三井ビル北側)
営業:18:30~23:00ごろ/日曜日,祝日,雨天休 ※変動あり
Facebook:https://www.facebook.com/genkai.tenpura/
【長浜屋台 若大将】
「屋台の経験ゼロで一から修行ですよ。」
福岡市中央卸売市場前、通称長浜屋台で長く屋台を構えている「若大将」澤野さん。佐賀県出身で地元で建設業を営んでいたが、27歳の頃に屋台をやっていた叔父さんの誘いにより福岡に来て屋台を始めました。「屋台「長浜とん吉」の親方が私の叔父であり、私の親方なんです。長浜の親分と呼ばれてたよ」。昔「長浜とん吉」は系列を合わせて7軒営業し、長浜全体で15軒が軒を連ね連日盛り上がっていました。
長浜ラーメンへのこだわり
現在はラーメン1杯500円の価格設定だが、昭和45年~50年頃は1杯300円にて提供。試行錯誤を重ねてきたこだわり麺。現在は福岡県産のラー麦を使用。「先輩たちが長浜=屋台・ラーメンっちゅうのを作ってくれたからね、長浜ラーメン発祥の場所っていうのをアピールしてきたいねえ」。
毎日満席の長浜屋台
「昔の客層でいうと市場の関係者や地元の方、そして7割が観光客。毎日どの屋台も満席、満席で凄かったですよ」とのこと。ここ20年「屋台の雰囲気やイメージを明るくしたら女性客も多く訪れるようになり、ネットが普及してから外国人も多くなったね~」と語る大将。入りきれないお客さんが並ぶ光景が昔は当たり前でした。芸能人も多く、「福岡に来たら必ず長浜の屋台に寄れっていうのがあったからね。福岡出身のアイドルやミュージシャン、ほんと有名な人たちがいつも来よったです。」
長浜屋台の移転
屋台の中でも長浜はお客さんが非常に多いエリアでしたが、近隣にマンションなどが増え、騒音や汚水の垂れ流し、歩道の占拠など苦情が多いことが問題でした。その後、歩道の幅が確保できていなかったため,屋台の場所を東に100mほど移転しました。
「移転してから雰囲気が前から変化してお客さんも減ってしまって・・・タクシーも店の前を通らんから長浜の屋台はなくなったって思われとる」と寂しく呟く。
「長浜の火を消したらいかんという思いはいつもあるとですよ」
40年以上大将と共に長浜で屋台を切り盛りしている女将さん「屋台は人情でできてる。人間と人間だから触れ合うことが一番の魅力かな」と発言。昔来ていたお客さんが懐かしくて再来したり、常連の親と一緒に来ていた当時17歳だった子がもう気づくと40歳、部下や同僚と来てくれることが何よりも嬉しい出来事。「年なりにゆっくりと屋台を守っていきたい」と今後の屋台について考えています。
長浜屋台 若大将
住所:福岡市中央区港1-1(福岡市中央卸売市場前)
【とん吉】
「屋台を始めて苦労したと思ったことはない」
中洲中島町・昭和通り沿いにある屋台「とん吉」は、松井さんご夫婦と娘さんで切り盛りをしています。昭和50年の1月から屋台を始め今年で45年。「知り合いから引継いでお父さんと始めたんよね!専業主婦だったからまったく経験なかった」と女将さん。
「旅館のお客さんがよくきてくれてた」
以前は博多区須崎町に屋台を出していたが、福岡市屋台基本条例をきっかけに現在の場所へ移動。「昔は旅館の近くだったから泊りのお客さんが来ることも多かったね、あとは近所の家族連れや常連さん」。現在は屋台ブームもあり、春休みには卒業旅行に来た高校生や大学生がたくさん訪れる。「週末はやっぱり観光客の人が多いね」。
「たくさんの想い出がありますね~」
いろいろな出来事が起こることも屋台の楽しみ。「ここに移る前は川が近くにあってね、トイレに行ったお客さんがなかなか帰ってこなくて。やっと帰ってきたと思ったら、川に落ちてたって。びっくりしたね」と外で営業する屋台ならではの事件も。また、長く付き合いのある常連さんの子どもやその孫が訪ねてくることも珍しくありません。
一年中食べられる、変わらない味のおでん
「おでんはみんな美味しいって言ってくれるの、だからうちは夏場でも置いているのよ」というおでんは出汁にこだわり、シンプルに昆布と鰹節で作られている。毎日出汁を作り、継ぎ足しは一切なし。「里芋のおでんが人気かな。珍しいと思うから一度味わってみて」。その他のメニューも豊富で、「ホルモン」や「焼きラーメン」も人気商品!
「あとは恩返しの人生」
「今まで支えてもらったお客さんに恩返しをしたいと両親が言っているから、少しでも長く続けられるように手伝いを始めました」と、今年から屋台を手伝うようになった娘さん。小さい頃から屋台でご飯を食べたり、常連さんに可愛がってもらったりした娘さんにとっては特別な場所。大将「屋台をやっていて良かったことしかない。お世話になった人たちの繋がりを大切にしていきたい」と最後に一言。
とん吉
住所:福岡市博多区中洲中島町1-3(昭和通沿い)
営業:18:30~01:00ごろ/日曜日,雨天休 ※変動あり
instagram:https://www.instagram.com/yatai_tonkiti50/