長浜屋台街の復活と周辺環境の変化
2023年10月23日
1.長浜屋台街復活へ
長浜地区は長浜ラーメンの発祥の地として知られています。もともと長浜ラーメンは魚市場で働く人に提供され、それが人気となり、何度かのラーメンブームを経て、長浜屋台街も合わせて全国に知られるブランドになったと考えられます。
長浜の屋台数は2000年時点で15 軒あり、その後、15軒ほどを維持していましたが、2016(平成 28)年2月に、150m南東の現在の位置に移転。軒数は、現在の位置となった時には9軒となり、2017(平成 29)年4月には5軒、2021(令和3)年 11 月には2軒(「長浜とん吉本店」「さよ子」)のみとなっていました。その後、1軒は休業状況となり、全く屋台が出ない日もありました。
この間の衰退の理由は、屋台営業は一代限りの原則があることや店主の高齢化が考えられます。さらに長浜ラーメンを提供する屋台の中には、通常の店舗に移行し、多店舗展開をするところが出てきました。長浜ラーメンをどこでも味わえることとなったため、客はわざわざ長浜まで足を伸ばさなくなり、減少に拍車をかけたと考えられます。
この間、福岡市は2016(平成28)年に第1回、2018(平成30)年に第2回、2020(令和2)年に第3回の公募を行います。第3回までの公募で、福岡市全体で37軒の屋台が新たに誕生しましたが、長浜では公募をしても新たな屋台が生まれない事態になりました。
この流れが変わったのは、2022年の第4回の公募でした。長浜ではグループ応募(複数人による申し込み)が可能なこともあり、かつての長浜屋台街の賑わいを取り戻したいという意欲溢れる営業者が名乗りをあげました。最終的には長浜地区で7人の営業者が選ばれ、既存の2軒と合わせて9つの区画が全て埋まることになりました。新規7人の平均年齢は37歳で、ラーメンだけではない、多様な料理を展開する長浜屋台街として復活をすることとなりました。
2.長浜地区周辺の変化
第4回の公募で長浜の希望が増えた理由は、市が広報に力を入れたことや、募集期間を長く設定するなど応募しやすい制度にしたことなどもありました。加えて長浜地区復活の背景には、まちが大きく変わってきたことがあります。ここでは長浜地区が近年、どう変わったかをみていきます。
①周辺の環境整備進む
長浜地区は、2014(平成26)年に長浜鮮魚市場南側の道路(長浜1449号線)が拡幅されました。まちの骨格とも言うべき道路の改善は、市内の交通渋滞の改善と同時にその後の周辺部のマンションや商業の立地にもつながったことが考えられます。さらに2016(平成28)年に屋台が現在の位置に移転することとなります。移転前の長浜の屋台は市場の西側に位置し、2m以上の歩道幅が確保できず、再配置(※1)の対象となっていました。また、衛生面でも上下水道が完備されておらず、たびたび周辺から不衛生との指摘がされてきました。
2016(平成28)年に市は、長浜鮮魚市場の西側歩道(市道)から150m離れた歩道に、屋台用に上下水道や電気設備、公衆トイレを整備した上で、移転を進めました。これによって、歩行者の通行が妨げられないのはもちろん、流水で皿やコップを洗浄できることとなり、衛生面も向上しました。屋台「さよ子」の店主・松元幸代子(82)さんは「水を汲みに行かなくていいだけでも楽になったし、屋台をキレイに使えるようになった」と言います。周辺のインフラの整備は、屋台側にとっても、利用者にとっても、よい効果をもたらしたといえます。
(※1)屋台基本条例施行規則では「屋台を設置した後の歩道の有効幅員が2メートル以上」と定めており、長浜は再配置の対象でした。
②長浜地区の人口の急増
近年、長浜地区は住む場所としても注目されています。長浜地区の人口は、住民基本台帳によると2002年は1,410人でしたが、2022年には3,300人と、この20年間で2倍以上に増えました。特に2014年ごろから急激に増えたことがわかります(図1)。長浜は、天神まで歩いて20分という立地に恵まれ、新たなマンションの建設も進んでいます。さらに長浜地区は、20代、30代の若い世代が多いのが特徴です(図2)。旧来の長浜の屋台は観光客や天神・博多駅のビジネスマンによって担われていたと考えられますが、足元の人口が増え、若い住民の気軽な食事の場所としての可能性も広がっています。
③商業施設の誕生
人口が増えたことで長浜地区にはコンビニエンスストアが増えています。現在、屋台周辺部にはコンビニが6店舗あり、そのうち3店舗がこの10年以内に立地しています。
さらに長浜地区はコンビニだけでなく、近隣からの来訪も期待できる施設が完成しました。2021年2月には、長浜屋台街から歩いて30秒のところに、複合商業施設「キテラタウン福岡長浜」(福岡市中央区港1丁目10−1)が、オープンしました。キテラタウン福岡長浜は地上4階建てのショッピングセンター(延床面積は3,488坪)で、1階には24時間営業のスーパーマーケットが入り、2階には子供用品店、ドラッグストア、カラオケ店、3階にはゲームセンターやキックボクシングジムなど全部で15店舗が入っています。
近隣から人が集まり、人の流れが周辺の屋台に波及することが期待されています。
長浜地区の地価も上昇
長浜地区の周辺環境が大きく変化したことで、地価も上昇しています。長浜(商業地)の地価は2019(令和元)年以降、地価上昇率が毎年、福岡市商業地平均)を上回り、2022(令和4)年、2023(令和5)年には実額で福岡市(商業地平均)を上回りました。ちなみに福岡市の商業地の変動率(※2)は2023(令和5)年は10.6%と、都道府県庁所在地の中で3年連続トップでした。長浜地区はそれを超える上昇を示していることになります。
(※2)変動率は、前年と継続する標準地(又は基準地)における価格の変動率の単純平均したもので、現年平均価格と前年平均価格とにより算出した変動率とは異なります。
3.長浜屋台街、まちの発展とともに
長浜屋台街が復活した背景には、以上みたような長浜のまちの変化があると考えられます。さらに、福岡市鮮魚市場(中央区長浜)では、「長浜ブランドの構築・市場活力の維持」を目標に、魚食普及・水産物の消費拡大を図り、市場活性化に向けた新たな活性化ゾーンを設ける取り組みも始まっており、さらに多くの市民が集う場所となることが期待されます。
まちの変化によって、まちの魅力が向上し、屋台もまたまちの魅力アップに貢献することができれば、以前の長浜とも違う、また天神や中洲とも違う新たな長浜独自の屋台文化の創出が期待されます。
2023年10月20日 寄稿者:八尋 和郎
経歴)株式会社THINK ZERO代表取締役
学位論文「都市における屋台の持続的な運営環境の整備と発展的な活用に関する研究」で九州大学大学院から博士号を取得。その後、公益財団法人 九州経済調査協会に勤めるかたわら、福岡市『屋台との共生のあり方研究会』では経済効果について報告。『福岡市屋台選定委員会』副委員長を歴任。現在に至る。