屋台基本条例制定からの10年、屋台消滅の危機からの復活!
2023年7月19日屋台は戦後の闇市から始まったとされ、その後、何度かの廃止の危機を乗り越えながら、現在につながっています。屋台は道路や公園などの公共空間を占用することから、行政や警察の管理の対象ではありましたが、一方で社会的な慣習から占用許可を得ずに営業している状況が続いていました。政策の大きな転換になったのが、「屋台指導要綱」(2000年)、「屋台基本条例」(2013年)の施行でした。屋台の条例を持っているのは、全国では福岡市だけであり、今年7月1日で条例が制定されて10年になります。
要綱から条例へ
2000年に「福岡市屋台指導要綱」が制定・施行されました。行政が屋台に占用許可を出すことによって、占用許可を得ずに営業しているこれまでの状態から、適正に指導していこうとする方向に転換を図りました。
指導要綱が施行されたことによって、屋台側、行政側ともにルールを守るべきという認識が強まりました。しかし、実際には再配置(注1)が進まなかったことや、ルールが守られずに汚損や悪臭などの苦情があったこともあり、問題を残していました。最大の問題は、屋台が公共空間で私的な営利活動を行っていることが問題視され、福岡県警から「原則一代限り」(注2)の方針が示されたことです。その結果、屋台数が減少することはあっても増えることはできないことになりました。実際、屋台数は60年代のピーク時の400軒以上から減少し、2000年には190軒、2010年には155軒にまで減少していました。一方で、全国の屋台はほぼ消滅しており、観光資源や福岡らしさのシンボルとしてのその価値は高まっていきました。
屋台は将来的にその灯が消える可能性もあるなか、全国的な評価は高まるといった矛盾を抱えていました。そうした中、高島市政が2010年に誕生し、2011 年6月議会で屋台問題について再検討することを明言しました。9月に鳥越俊太郎氏を委員長に市民、学識経験者、地域住民、屋台営業者など 23人で「屋台との共生のあり方研究会」が設置され、7回にわたって議論し、その結果、2012年に「福岡のまちと共生する屋台へ」と題した提言書が高島宗一郎市長に提出されました。
その後、市の内部に「屋台共生推進本部」がつくられ、道路、公園、食品、観光など多くの所管にまたがって屋台施策が検討され、条例案となり、議会での議決を経て、2013年7月1日に条例の制定となりました。
注1) 再配置(の対象):屋台を設置した後の歩道の有効幅員が2m未満となる屋台、視覚障がい者誘導用ブロックが設置されている歩道において当該ブロックから0.6m未満となる屋台 。
注2) 原則一代限り:継承は「原則として当該屋台営業者の配偶者又は直系血族の子である相続人」に限られ、 かつ、「屋台営業による収入により主たる生計を立てている者」でなければ認めないとされてきた。
屋台基本条例の内容
屋台基本条例の目的には、屋台が「福岡のまちににぎわいや人々の交流の場を創出し、観光資源としての効用を有している」と述べています。福岡市における屋台の効用を認めた上で、今後も屋台が都市の中で重要な効用を発揮するためには、市、屋台営業者、利用者のそれぞれが責務を果たすことが重要と述べています。
条例は屋台が守るべき基本ルールを明確にしました。占用時間・屋台規格等について、本人による営業(注3)について、周辺環境や占用料について等々、細かく決められています。
一方で、条例は、屋台側だけにルールの遵守を求めたのではなく、市や利用者にも責任があることを明確にしました。市には屋台営業者の指導監督だけでなく屋台の適正な利用の促進、上水道等の環境の整備を求めました。利用者にも地域住民の生活環境に配慮した利用を求めています。こうした条例の施行によって厳格化された面と緩和された面の両面がありました。ルールが守られない場合の罰則や本人営業の徹底などを求める一方で、営業時間(注4)や屋台規格(注5)については実際の営業に即した内容となりました。
注3) 屋台営業は、占用許可を受けた者自らが直接行わなければならない。
注4) 屋台の営業時間につき、「屋台及び器材の搬入及び搬出を含めて、午後5時 から翌日の午前4時まで」に統一された。
注5) 「間口3m×奥行き2.5m以内」という屋台の規格は維持しつつ、プロパンガス等必要な器材を「間口5m×奥行き3mの範囲内」で置いても良いことになった。
屋台公募制の導入
条例の中で最も大きなポイントは公募制の導入であったと考えられます。条例では「市長は、市道等又は公園における屋台営業が、まちににぎわいや人々の交流の場を創出し、観光資源としての効用を発揮することができると認めるときは、場所を指定して、(略)」屋台営業希望者を公募できるとしています。これによって上下水道の整備や周辺の住民・事業者の理解など開設場所の条件が揃えば、新たな場所で公募することも可能となりました。
2016年に第1回の公募が行われ、第3回までの公募で37軒の屋台が新たに誕生しています。さらに昨年8月に4回目の公募が行われ、競争倍率5倍の難関を乗り越えた13軒が加わりました。7月には全体で105軒となる予定です。そのうち公募屋台は41軒と4割を超えるまでになりました。
屋台公募によって、屋台をやってみたいけれども、やれなかった人に新たな道が開かれました。多様な人が加わり、提供される料理だけでなく、営業のスタイルや屋台の形にも工夫が生まれ、博多の屋台に新たな魅力を添えました。(次回以降、新しい屋台も紹介していきたいと思います。)
屋台から世界のyataiへ
条例が制定され10年、屋台の効用を高めるために市、屋台営業者、利用者のそれぞれが、問題の解決に努力し、屋台の魅力を高めてきたことは間違いありません。その結果、100軒を超える屋台が維持され、全国でも珍しい存在となりました。それは日本にとどまらず、海外における福岡の評価を高める一因にもなっています。
アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」は毎年1月、「今年行くべき場所」を発表しています。今年、2023年版で発表した世界52カ所の中に、日本では福岡市と盛岡市の2カ所が選ばれ、大きな話題となりました。同紙では「福岡は、屋台が並ぶ日本に残る数少ない場所のひとつ」と紹介しています。
福岡の屋台は世界のyataiへと飛躍しつつあります。
2023年6月30日 寄稿者:八尋 和郎
(経歴)株式会社THINK ZERO代表取締役
学位論文「都市における屋台の持続的な運営環境の整備と発展的な活用に関する研究」で九州大学大学院から博士号を取得。その後、公益財団法人 九州経済調査協会に勤めるかたわら、福岡市『屋台との共生のあり方研究会』では経済効果について報告。『福岡市屋台選定委員会』副委員長を歴任。現在に至る。