アーカイヴ・コレクションPart13【福岡市総合図書館 映像ホール・シネラ】スタンス・カンパニーの軌跡 2020年1月
開催終了 百道・早良エリア90年代以降、独自の価値観で映画製作&配給を展開するスタンス・カンパニーの特集
◇スタンス・カンパニーってどんな会社?
スタンス・カンパニーは1986年、東京湯島に設立された映写技師派遣や出張映写、字幕制作などを手掛ける会社です。現在もそうした裏方的な技術の仕事を続けています。映画の配給や製作を手掛けるようになったのは1990年から。海外の作品を中心に配給していましたが、あまり知名度の高くない若い映画監督や、大手配給会社では取りあげない異色な作品を数多く紹介してきました。製作の方でも国内外を問わず個性の強い作家と組んで、いわゆる「とんがった作品」を手掛けています。90年代当時には強い偏見にさらされていたLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)や先住民などの少数者、また、世間の「規範」からはみ出した人々に焦点をあてているのは、特色のひとつでしょう。スタンス・カンパニーが製作・配給したユニークな作品群は、決してメジャーなものではありませんが、それゆえに貴重なコレクションを形成しています。また昨今では瀬々敬久監督の作品『ヘヴンズ ストーリー』『菊とギロチン』が国内外で非常に高く評価されました。それらを含む、スタンス・カンパニーが製作/配給した映画の多くが、福岡市総合図書館に寄贈されています。福岡市総合図書館には、映画の保存に取り組む「フィルム・アーカイヴ」の機能があります。フィルム・アーカイヴが図書館に併設されるという例は非常に少なく、多くは美術館や博物館に併設されています。しかしながら、映画は美術品や重要文化財、国宝などの隣に置かれるべきだとも言い切れません。むしろ文学の隣、書籍とともにある方が似合っているように思えます。フィルムに映像がプリントされたものが映画だとすれば、書籍は紙に文字がプリントされたもの。映画と書籍は同じ時期に生まれた複製芸術とも言えるのです。スタンス・カンパニーからの寄贈作品の多くも、優れて文学的であり、図書館にふさわしいものと考えています。
[上映作品]
■五月 夢の国
1月25日(土曜日)11時~
監督:イ・ウン チャン・ドンホン チャン・ユニョン
製作:製作集団チャンサンコッメ
1988年/16ミリ/カラー/84分/韓国/日本語字幕付き
80年代後半、民主化運動で混沌とする韓国において、独立映画運動が活発となる。その渦中に若い映画人や学生によって製作された本作は、当時の韓国内では、その情報がタブーとされていた1980年5月の“光州事件”を背景に、米軍駐留など韓国社会の矛盾と葛藤を描いた問題作。韓国当局から上映中止勧告や治安部への告発などの弾圧がなされるが、あるルートにより奇跡的に日本国内にフィルムが持ち込まれ公開した、画期的かつ伝説的作品。
■地下の民
1月23日(木曜日)11時~
監督:ホルヘ・サンヒネス
音楽:セルヒオ・プルデンシオ
1989年/35ミリ/カラー/125分/ボリビア=イギリス=スペイン=ドイツ=日本/日本語字幕付き
ボリビアのウカマウ集団作品を日本に紹介した、「第一の敵」上映委員会(現シネマテーク・インディアス)共同製作・配給の本作にスタンス・カンパニーが協力し、山本政志監督「てなもんやコネクション」公開のために渋谷の空き地に建てられた仮設の映画小屋「TANK2」で祝祭的空間を演出しつつ上映された。アンデス先住民族のアイデンティティーの喪失と再生を、その神話的世界や宇宙観とともに大きなスケールで描いた衝撃作。1989年度サンセバスチャン映画祭グランプリ。
■蜃気楼劇場
1月22日(水曜日)14時~
監督:杉本信昭
出演:劇団維新派
1992年/16ミリ/カラー/111分/日本
1991年、東京汐留の広大な空き地に巨大な野外劇場を建設してしまった大阪の劇団・維新派。そこで行われた公演「少年街」によって、 彼ら独自のスタイル「ヂャンヂャン☆オペラ」を確立することになる。どこからともなく集まってくる建築スタッフの手により、何もない空き地に立ち上がっていく劇場。そこでの公演。そして、取り壊し立ち去るまでのドキュメント。「更地から更地へ」をモットーに、故松本雄吉が率いた異色劇団、維新派の貴重な記録。
■ターチ・トリップ
1月24日(金曜日)11時~
監督:大木裕之
プロデューサー:ユルゲン・ブリューニンク
1994年/16ミリ/カラー/64分/ドイツ=日本
独自の実験的スタイルにより、海外の映画祭で高い評価を受ける大木裕之監督が、ドイツ人プロデューサーの出資により製作。92年夏の高知で撮影されたフィルムは、編集されることはなく、撮った順番に繋げるという手法により、ある青年の生と死のイメージが曖昧に共存する。90年代という時代の気分の内なる物語は、「エイズ時代のブッディズム・フィルム」と評された。
*スタンス・カンパニー製作&配給作品予告編集を先に上映いたします。
■鳥の歌
1月23日(木曜日)14時~
監督:ホルヘ・サンヒネス
出演:ジェラルディン・チャップリン ホルヘ・オルティス
1995年/35ミリ/カラー/100分/ボリビア=ドイツ=日本/日本語字幕付き
『地下の民』に続き、シネマテーク・インディアスが製作に参加したボリビア映画。16世紀スペインによる「征服」という歴史を、批判的にとらえるために映画製作へと乗り出した集団。先住民の村に到着した彼らは、村人たちとの思いもよらぬ軋轢に戸惑うことになる。村人たちは彼らに「出ていけ!」と言うのだった。チャップリンの娘、ジェラルディン・チャップリンが出演していることでも話題となった本作は、1995年のロカルノ映画祭で「質と刷新」賞に輝いた。
■JUNK FOOD/ジャンクフード
1月24日(金曜日)14時~
監督:山本政志
出演:飯島みゆき 古田新太
1998年/35ミリ/カラー/84分/日本
都市に生きる「非常識な人間たち」の生態を生々しく描き出した異色ドラマ。都市のある一日のありさまを、2つの独立した物語と、プロローグとエピローグに挿入された盲目の老女の物語で描いていく。昼はオフィスでまじめに働く美人OLが夜になると街に繰り出し…。そしてストリートにうごめくジャンキーで危ない人間たち…。90年代のリアルなストリートを活写し、ニューヨークを皮切りに全米10都市でも公開された鬼才・山本政志の傑作。
■W/O
1月26日(日曜日)11時~
監督:長谷井宏紀
音楽:藤乃家舞 KUJUN
2001年/デジタル/カラー/60分/日本
取り壊し騒動で揺れる東京大学駒場寮には、学籍を持たないアーテイストや外国人などが無断で住みついていた。寮内でギャラリーを運営していた監督:長谷井宏紀もそのひとり。彼が写し取った仲間たちの日常や祖母の死などをコラージュし、デジタル・ノイズに満ちた荒れた映像と、激しくシャウトするクールな音楽が見事に調和する異色作。2000年ソウルネットフェスティバル・デジタルエクスプレス特別賞受賞。
■ヘヴンズ ストーリー
1月25日(土曜日)14時~
監督:瀬々敬久
出演:寉岡萌希 長谷川朝晴
2010年/35ミリ/カラー/278分/日本
実際の事件をモチーフに、日常の中で突如殺人事件に直面した人々の複雑な絡み合いと葛藤を、全9章、上映時間4時間38分、20人を超える登場人物で描いた大巨編。いまだ世界を覆う「憎しみ」と「復讐の連鎖」への考察は、21世紀の『罪と罰』と称された。第61回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞とNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)をW受賞。
*途中、5分間の休憩があります。
■石巻市立湊小学校避難所
1月22日(水曜日)11時~
監督:藤川佳三
プロデューサー:坂口一直 瀬々敬久
2012年/デジタル/カラー/124分/日本
2011年3月の東日本大震災後、市民の避難所となった宮城県石巻市の小学校に単身で訪れた藤川監督が、避難所が閉鎖されるまでの約半年間を被災者と生活を共にしながら、その日常を記録したドキュメンタリー。当初カメラの前では気丈に笑顔を振りまきながらも次第に悲しさや悔しさを吐露する人々の姿や、避難所で知り合った見ず知らずの老人や子供たちが、互いに励ましあいながら生きる力を生み出していく姿を映し出していく。
■菊とギロチン
1月26日(日曜日)13時~
監督:瀬々敬久
出演:木竜麻生 東出昌大
2018年/デジタル/カラー/189分/日本
関東大震災後の大正時代末期を舞台に、当時実在した女相撲の力士たちとアナキスト集団「ギロチン社」が、もし出会っていたらという架空の物語。構想30年、予告編などで出資と出演者を募り、製作&公開にまで漕ぎつけた監督渾身の自主企画。内向きで閉塞感漂う現代世界に向け、改めて「自由」と「自主」を問う、アナーキーな青春群像劇。2018年度、「キネマ旬報」日本映画第2位、同監督賞、脚本賞、新人女優賞、新人男優賞。毎日映画コンクール日本映画優秀賞などを受賞。