<郊外型ワーケーション>「西戸崎エリア」アラタ・クールハンドさん
2022年12月28日アラタ・クールハンドさん
東京都出身。広告や挿絵などのイラストレーターとして活躍する傍ら、首都圏に残る古い平屋住宅と、そこに暮らす人たちを紹介する「FLAT HOUSE LIFE」を2009年に発刊。2013年には福岡市東区西戸崎に残る平屋建ての米軍ハウスに拠点を設け、現在も東京と福岡の2拠点生活を行っている。近年は平屋住宅リノベーションのプロデュースを行うほか、西戸崎の米軍ハウスを活用した宿泊施設「FLAT HOUSE villa」の運営も手がける。
――宿泊施設「FLAT HOUSE villa」(以下villa)はどのような施設でしょうか。
アラタさん「私が福岡に拠点を置くきっかけにもなった、西戸崎の米軍ハウスを改装したゲストハウスです。1940~70年代にかけて海の中道地区には『キャンプ・ハカタ』と呼ばれる米軍基地があり、赴任した軍人向けの平屋建ての木造住宅が作られていました。そのうちのひとつ、築70年くらいの建物を当時の雰囲気をできるだけ生かしてリノベーションし、2016年にオープンしました。建具や家具、照明なども古いものを使用しているので、日本の住宅にはない雰囲気を楽しんでもらえると思います。博多港から船で来ることもできますし、JRの利用も便利です」
――古い物件でゲストハウスを運営するのは大変な面もあるのではないでしょうか。
アラタ「メリット、デメリットで言うと、メリットだらけですよ。不動産の視点からいえば築半世紀以上の木造平屋は評価額ゼロですが、その分価格や賃料は超の付く安価です。そして、きちんと手を入れて再生すれば利用者からの評価はとても高くなります。新建材で建てた家屋にはない造作の豊かさや、経年で得られる味わい、壁や建具の質感など有形無形の楽しみがあり、その良さにみんなが気付き出しています。低賃料、家は残る、喜んでもらえるといった3拍子揃った物件です。そしてゲストハウスを運営することで利益も産むわけですからね。また、建て替えをしない分、産廃を出さないという環境配慮へのメリットも忘れてはならない点でしょう。特にコロナ禍で建築材料の高騰が著しい昨今、少ない資材でできる古家の再生・リユースは理に適っているといえます。デメリットは冬季の暖房費が少し多目にかかるということくらいでしょうか」
――コロナ禍において、米軍ハウスの宿泊施設に変化はありましたか。
アラタさん「私たちのvillaは以前から大盛況というようなゲストハウスではなかったので(笑)、大きな変化はほとんどありませんでしたね。以前は私の本の読者が米軍ハウスの視察を兼ねて泊りに来るというようなケースが多かったのですが、コロナ以降は自宅ごもりや自粛疲れで海辺の木造平屋へ、というようなファミリーやカップルが増えた印象です。また、来て初めて米軍ハウスというものを知ったというゲストが多くなったような気もしますね。自分たちが住むマンションや新築一戸建てとは明らかに空気が違う、という感想を口にして帰る方々がほとんどです。その部分はこのパンデミックで得られた数少ない収穫かもしれません」
――このような宿泊施設でワーケーションをするとどういった心境の変化があると思われますか。
アラタさん「気持ちが落ち着くと思いますよ。個人差はあるでしょうが、私自身が経験したことですから(笑)。会社員を辞めてイラストレーターとして独立した頃、一日中ワンルームマンションの部屋にこもっていたら調子が悪くなってしまって。都心から離れた場所で古い平屋を借りて暮らし始めたら精神状態が安定しました。これは木造の古家特有のヒーリング効果なのではないかと思います。なかでも、ドアを開ければすぐ土に触れられるフラットハウスにはその効果を強く感じます。話だけでは理解してもらうのが難しいかもしれませんが、数日間滞在すれば、少なからずその違いや感覚がわかってもらえるのではないかと思います」
――ワーケーション施設としての使い方の提案はありますか。
アラタさん「県外からの長期滞在はもちろんですが、福岡市内在住の方にも利用してもらいたいですね。おすすめは、社内や部内の仲間と仕事終わりにフェリーを使って西戸崎に集合というコースです。終業後、villaに集まって雑談しながら夕飯を楽しみ、そのまま宿泊。翌朝みんなで博多湾を再び渡って出勤する。これまで数社の方々に実践していただきましたが、みなさん楽しそうでしたよ。今なら翌日も引き続き西戸崎でテレワークというパターンもありでしょうし。都心のビルのオフィスとはまた違い、築70年の米軍ハウスのリラックスした空気の中で仕事仲間と言葉を交わすというのは、きっとひと味違った時間になるはずです。また、フェリーに乗るという行為が非日常感をより一層引き出してくれるんですよ。こんな近くにこんなロケーションがあるのですから、ぜひ気軽に体験して欲しいですね。
また、最近庭に設けたデッキでも気持ちよく仕事ができるのではないかと思います。今は3月初旬(取材時)なのでまだ寒いですが、先日、季節外れの暖かい日が続いた時に泊まったご家族が使ってくれていました。ご主人が屋内で子どもと遊んでいる間に、デッキで奥さまが仕事をするという具合に。キッチンと繋がっているので、外にいながら何かあればすぐ中に戻れるというのも便利ですよ。これからの季節は使っていただける機会が増えると思うので、ゲストの反応が楽しみです。費用はポストコロナを見据えた宿泊施設の高付加価値化という、市の事業の支援金を充てました」
――西戸崎でワーケーションをすることのメリットを教えてください。
アラタ「西戸崎は周囲を海岸に囲まれているので、町のどの場所からも5分以内で海にアクセスできるという環境です。villaは真裏がすぐ浜辺なので、ちょっと海を見たくなったら徒歩1分でそれが叶います。夜寝ていると船の汽笛やさざ波の音が聞こえてくることも。また広大な緑地を有する『海の中道海浜公園』が徒歩圏内にあるというのもいいですね。海も緑も豊富にあるのに都心部へのアクセスも良好という、いいとこ取りのロケーションが西戸崎の大きな魅力だと思います。それに物価が低いというのもアドバンテージではないでしょうか。これには引っ越して来た時に私もかなり驚きましたが、新鮮な地元食材がとても安いんですよね。これは長期滞在の場合には大きなメリットになるのではないでしょうか。総じてワーケーションの拠点としてこの上ない立地だと思います」
――アラタさんは西戸崎や福岡市のどんなところに魅力を感じていますか。
アラタさん「西戸崎の魅力は、やはり低い建物が多い街並みでしょう。米軍の大型車両が走った関係上、道路がきちんと格子状になっていて、道幅も広くとっています。そこに来て平屋が多いので、ゆったりしているんですよ。その景色がゆるい空気が流れているといわれる所以ではないかと思います。ゲストにその良さを知っていただくべく、街に残るフラットハウスをイラスト化して落とし込んだマップを作成しました。ただ、ここ1~2年で急速に建て替えが進んでいるので、この街並みがいつまで続くのかが目下の懸案事項ですね。
都心部も私からすると魅力だらけです。地元の人たちは『福岡市は観光地が少ないとよく言われる』とこぼしますが、そんなことはまったく嘆くに値しません。古い街並みと元気な個人店舗があるし、街自体が持つ明るい雰囲気とそこに暮らす明快でおおらかな人々。東京がすっかり失ってしまったものが福岡にはたくさん詰まっています。それこそが福岡の観光資源であり財産なのだと気づき、守っていってほしいですね」
○アラタ・クールハンドさん
ホームページ: https://aratacoolhand.net/
FLAT HOUSE villaの情報はこちらでご確認ください。